大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

札幌高等裁判所 昭和55年(ネ)247号・昭55年(ネ)288号 判決

以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。

【判旨】

一当裁判所も、被控訴人の本訴請求は、控訴人らに対し慰謝料として各自金二〇万円及びこれに対する昭和五四年一一月二二日から支払済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるからこれを認容し、その余は理由がないからこれを棄却すべきものと判断するものであるが、その理由は、次のとおり付加、訂正するほかは原判決の理由説示と同一であるから、これを引用する。

当審における新たな証拠調の結果によつても右判断を左右するに足りない。

1 原判決六枚目裏五行目の「一」の次に「1」と付し、同七枚目表一一行目の末尾に「なお、請求原因2の(二)の事実については、被控訴人主張の日時、場所において、その主張のような本件ビラが配布された事実は当事者間に争いがないが、本件全証拠によるも、本件ビラの配布が控訴人重野によつてなされたとの事実は、これを認めることができない。」と加える。

2 同七枚目表一二行目の冒頭に「2」と付し、その裏一〇行目から末行までを削る。

3 同八枚目表七行目の「しかるに、」とあるのを「ところで、」と、その裏二行目に「被告は、」とあるのを「控訴人らは、」とそれぞれ訂正する。

4 同八枚目裏九行目の「証人山藤栄一の証言及び」とあるのを「原審証人山藤栄一及び当審証人香月洋一の各証言並びに」と、同一〇行目に「山藤の解雇後、」とあるのを「右山藤に対する解雇が、控訴人ら主張のとおりの態様によつてなされたものであること、」と、同一三行目から末行にかけて「証人山藤栄一、」とあるのを「右証人ら及び」と、同行に「被告主張事実」とあるのを「控訴人ら主張事実」と、それぞれ改める。

5 同九枚目表三行目の「山藤を解雇する旨」以下五行目の「承認を得ており、」までを削り、同九行目から一〇行目にかけて「おいては、」とあるのに続けて「控訴人重野において、被控訴人の前記山藤に対する解雇通告が解雇権の濫用に該るものと判断したとしても、この一事をもつて直ちに」と加える。

6 同九枚目裏三行目の「栄一」の次に「、当審における証人香月洋一」を加える。

7 同一〇枚目裏三行目に「被告の抗弁は、」とあるのを「控訴人らの抗弁は、当審における付加主張をも含めて」と改める。

8 同一一枚目表七行目に「掲示されただけであつて、」とあるのを「掲示されただけであることは当事者間に争いがないところ、右掲示板の各設置箇所の状況、特に、その箇所における一般公衆の立ち入りの程度とそれに伴う本件記事の流布の度合については被控訴人において格別立証するところでなく、本件記事が」と、同一一枚目表末行に「必要性に乏しく、」とあるのを「必要性に乏しいばかりでなく、むしろ、前示一般的周知性の程度に比らべて著しく均衡を失し、」とそれぞれ改める。

9 同一一枚目裏四行目の「内容、」の次に「特に、その掲載の直接の動機となつたと認められる被控訴人の前示山藤に対する解雇については、原本の存在及び成立に争いのない乙第八号証に照らし、その正当性を主張する被控訴人本人の原審並びに当審における各供述は、これをそのまま採用することができないことなど、」と加える。

10 原判決末尾添付の(別紙(二))の三行目から四行目にかけて「見せしめのために、」とあるのを「見せしめに、」と訂正する。

二よつて、これと同旨の原判決は相当であり、本件控訴及び附帯控訴はいずれも理由がない。

(瀧田薫 吉本俊雄 和田丈夫)

<参考・第一審判決理由>

一 請求原因1の事実及び同2の(一)の事実のうち、被告重野が本件記事を編集したうえ、これを昭和五三年七月一〇日付第六一一号のカベ新聞に掲載したこと、同新聞が札幌市役所、北海道庁内などの各労働組合掲示板に掲示されたことはいずれも当事者間に争いがないところ、右争いのない事実に、<証拠>を総合すると、本件記事は、「盲導犬協会 福祉を喰いものにする松岡(自民党市議)を追求!!」という約1.5センチメートル角大のゴシック体活字による見出しのもとに、約0.7センチメートル角大の活字により別紙(二)記載のとおりの内容を記載したものであること、本件記事を掲載したカベ新聞は、約一二〇〇部印刷、発行され、札幌市内の被告地区労に加盟している労働組合のもとに送付されて、札幌市役所や北海道庁の労働組合掲示板をはじめとする各労働組合の約一二〇〇カ所の掲示板に掲示されたこと、札幌布役所、北海道庁などの右掲示板は一般市民も出入りできる場所にあり、一般市民の目に触れる状態におかれていたこと、被告重野は同地区労の事務局長であつて、カベ新聞の発行責任者として、記事掲載について最終的な取捨選択の裁量権を有していたところ、訴外新野勝昭執筆にかかる本件記事を本件カベ新聞に掲載することを積極的に承認して掲載に踏み切つたこと、以上の事実が認められ、右認定に反する証拠はない。

右認定の事実によれば、本件記事は、「福祉を喰いものに」、「協会を私物化」、「選挙に利用」といつた抽象的な評価の要素を含む表現を用い、右評価の基礎となる具体的事実をほとんど示すことなしに原告を非難する内容のものであつて、これを読む者をして原告は札幌市議会議員でありながら、盲人福祉のために設立された盲導犬協会を、その会長という地位を利用して自己の私利、私欲のために意のままに運営し、自分の選挙にも利用している、との印象を抱かせるものであるから、本件記事が本件カベ新聞に掲載され、これが一般市民の目に触れる場所に掲示されたことによつて、原告が市会議員、盲導犬協会会長、歯科医師という地位にあることにより保有していた社会的評価、信用は低下し、原告の名誉が毀損されたものというべきである。

なお、請求原因2の(二)記載のビラ配布の点については、単に本件記事と同趣旨のビラを作成、配布した旨の主張が存するだけで、そのビラの具体的な内容、文言等についての主張、立証がないから、右ビラの作成、配布による名誉毀損の成立を認定する余地はない。

二 右のように、本件記事は原告の名誉を毀損するものであるところ、名誉毀損については、当該行為が公共の利害に関する事実にかかわり、もつぱら公益を図る目的に出た場合において、摘示された事実が真実であることが証明されたとき、又はその行為者においてその事実が真実と信ずるについて相当の理由があるときには、その行為は違法性を欠き、不法行為は成立しないものと解される。しかるに、本件記事は、「福祉を喰いものに」とか「協会を私物化」とかの抽象的評価の羅列ともいうべきものであつて、その評価の前提をなす具体的事実についてはほとんど触れるところがないのであるが、このような場合においても、右評価の前提たる事実が真実であつて、同事実によればその評価が通常相当であると解されるとき、或いは、仮に前提たる事実が真実でないとしても、それを真実と信じるにつき相当の理由があると認められるときは、その認識した事実に基づいて通常相当とされる範囲内の評価である限り違法性を阻却し、不法行為は成立しないと解するのが相当であるところ、被告は、その抗弁において、本件記事中の評価的文言の相当性並びに前提事実の真実性を主張するので、以下、この点について検討する。

1 被告において原告が盲導犬協会を私物化していることの具体例として主張する事実のうち、昭和五三年五月二二日山藤が盲導犬協会を解雇されたこと、同年六月一二日山藤らが原告方へ団交申入れに行つた際原告が「営業妨害である」旨発言したことは当事者間に争いがなく、<証拠>によると、山藤の解雇後、原告が被告地区労傘下の札幌地域労働組合盲導犬協会支部の右解雇問題に関する団体交渉要求を拒否していたことが認められるが、その他の事実についてはこれを認めるに足る的確な証拠はない。もつとも、<証拠>中にはこの点に関する被告主張事実に符合する部分があるが、それらの部分は<証拠>と対比し、にわかに採用しがたいものというべきである。なお、<証拠>によれば、山藤を解雇する旨の意思表示は、原告が盲導犬協会の代表者として有する権限に基づいてしたもので、事後に同協会理事会の承認を得ており、原告が「営業妨害である」旨発言したのは、山藤らが団交申入れに赴いた原告方は歯科医院であつて、その時刻ころは多数の患者の診察で多忙であつたためであると認めることができ、この認定を左右するに足る証拠はない。そして、右事実関係のもとにおいては、原告が盲導犬協会を「私物化」しているとの評価は相当でないことが明らかである。

次に、被告において原告が盲導犬協会を「選挙に利用」していることの具体例として主張する事実のうち、昭和五二年に盲導犬協会の敷地内において原告の市議会議員生活一〇周年記念パーティーが開催されたことは当事者間に争いがないけれども、その他の点については前同様、にわかに採用しがたい。<証拠>にこれに沿う部分があるものの、他に右事実を認めるに足る証拠はない。そして、<証拠>によれば、右パーティーは、盲導犬協会が財政的に非常に苦しく、一般市民からの寄付に頼る面が大きかつたところから、同協会についての一般市民の理解を深め、同パーティーで募金活動をすることをも目的として開催されたものであり、その時期も昭和五〇年と同五四年の統一地方選挙の中間であつたことを認めることができる。してみると、原告が市議会議員生活一〇周年記念パーティーという名称のパーティーを盲導犬協会の敷地内で開催した点において誤解を与えかねない面がないわけではないにしても、原告が同協会を「選挙に利用」したと評価するのは速断にすぎ、相当な評価とはいいがたい。

2 また、<証拠>によると、右新野及び被告重野は、山藤の解雇問題を主題とする本件記事の執筆ないし掲載にあたり、一方の当事者である山藤からの事情聴取をほとんど唯一の情報源とし、第三者的立場にある者や、相手方たる原告側から事情を聴くなどして事実関係を調査するなど、事実の裏付についての適切な措置を採つていないことが認められ、これを左右するに足る証拠はない。従つて、被告重野が認識した協会を「私物化」し、「選挙に利用」したという評価の前提たる事実を真実と信じるにつき相当な理由があつたとはいえず、いわんや「福祉を喰いものに」するとの表現に至つては、被告が抗弁として主張する事実の全てが真実であると仮定しても、評価として不相当、不適切であることが明白である。

そうすると、本件記事について違法性阻却事由の存在を主張する被告の抗弁は、その余の点を判断するまでもなく、失当であつて排斥を免れない。

三 ところで、原告は、被告重野の原告に対する名誉毀損行為は、同被告の積極的意図に基づくものである旨を主張するが、そのように認めるに足る証拠はなく、かえつて<証拠>によれば、原告による山藤の解雇が不当であると信じた被告重野が原告を弾劾し、右解雇を撤回させるとともに、その解雇問題に関する札幌地域労働組合の活動を宣伝することを目的としていたものと認めることができる。

しかし、右名誉毀損について被告重野に過失があつたことは前項に説示したところから明らかであるから、原告に対し、同被告は民法七〇九条による不法行為責任を負担するものといわなければならない。また、被告重野による本件カベ新聞の編集、発行等の行為は被告地区労の事業の執行についてなされたものであることは弁論の全趣旨により認定できるので、被告地区労も原告に対し民法七一五条による不法行為責任を免れないというべきである。

四 そこで、原告が名誉回復のための措置として請求する謝罪広告の当否について考えるに、本件カベ新聞は札幌市内の被告地区労加盟の労働組合の掲示板に掲示されただけであつて、広く一般市民の目に触れたとまではいい難いうえ、この種の労働組合の機関紙においては、その表現に多少の誇張や刺激的文言を伴うことが往々にして見受けられ、それを読む者もそのようなものとしてこれを受取つていることは公知の事実というべきであるから、本件記事による名誉毀損の程度はさほど高度のものとはいえず、このような名誉毀損の程度、態様等に対比して考えると、謝罪広告の方法による原状回復の措置は必要性に乏しく、不適当といわざるを得ない。

従つて、原告の被つた名誉毀損による損害は、金銭賠償によつてのみ填補されるべきところ、右説示の諸事情のほか、本件記事の内容、その他本件に顕われた諸般の事情を勘案すると、右名誉毀損により原告が被つた精神的苦痛を慰謝すべき金額としては二〇万円が相当である。

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!